エレベーターのリニューアル工事「制御」「準撤去」「全撤去」の違いとは
コラム
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エレベーターは設置からおおむね20〜25年経つと、制御基板など主要部品のメーカー供給が終わり始め、交換品の注文ができなくなっていきます。供給が止まったあとは在庫を融通して対応していくことになるため、故障から復旧までの停止期間が長期化(場合によっては修理不可)となるリスクを抱えて使用していくことになります。
そのため更新工事を検討していく必要が出てくるのですが、既存のエレベーターをどこまで撤去・入れ替えるかによって「制御リニューアル」「準撤去リニューアル」「全撤去リニューアル」と3つの工事分類が出てきます。中心になるのは「制御」と「準撤去」の2方式で、「全撤去」は騒音を伴う工事と長期間の運休期間が発生するため、空き物件をリノベーションする時など、特定条件下での実施が主になります。
撤去する範囲で分かれる、エレベーター更新の3つの工事分類

エレベーターは、機械室にある巻上機や制御盤、昇降路の中のかごやガイドレール、そして各階の乗場に固定された三方枠・敷居・乗場ドアに大きく分けられます。このうち、どこまでを新品に入れ替えるかで工事分類が決まり、費用・運休日数・建築確認申請の必要有無が変わります。
| 工事分類 | 入れ替える範囲 | 運休日数の目安 | 工事費の目安(1基) | 建築確認申請 |
|---|---|---|---|---|
| 制御リニューアル | 制御盤や巻上機など機械室側の機器が中心。かご室や三方枠は既存を流用する | 3日〜1週間程度 | 500万〜1,000万円程度 | 不要となることが多い |
| 準撤去リニューアル | 制御機器に加えてかご室やドア機器も交換。三方枠・敷居など建物に固定された部分は残す | 2〜4週間程度 | 1,000万〜1,800万円程度 | 工事内容により必要 |
| 全撤去リニューアル | ガイドレールや三方枠を含め、昇降路の中身をすべて撤去して新しい機種に入れ替える | 1か月〜1か月半程度 | 1,500万円〜 | 必要 |
ここに挙げた水準は、複数社の見積を並べたときにどのあたりに収まるかという目安です。建築確認申請が必要になる場合は、申請と検査の期間が工程に上乗せされるため、着工までの準備期間も方式によって変わります。
また、金額の幅は、階数・積載量・既存の機種・部材の搬入経路といった条件で大きく動きます。テナントの営業時間帯を避けるなど、騒音を伴う作業の時間帯に制約がある建物では、夜間工事や工期の延長で対応することになり、その分費用が大きく膨らみます。
運休日数が、入居者やテナント対応の重さを決める

エレベーターが1基しかない建物では、その期間は上層階の入居者もテナントの来客も階段を使うことになり、宅配や什器の搬入、ゴミ出しの動線まで影響を受けます。ベビーカーや車椅子を使う入居者、足の不自由な高齢の入居者がいれば、事前の個別説明が欠かせません。
工事中だけ仮設の昇降設備を設ける方法は、設置と撤去だけで数百万円規模の費用が別途かかるうえ、敷地いっぱいに建てられていることが多い都内のビル・マンションでは据える場所自体が確保できず、現実的な選択肢になりません。運休している間は階段で動いてもらう、というのが基本になります。
そのため実務の中心は、3月から4月の引越しが集中する時期や、年末年始の搬出入が重なる時期を外すなど、工事の時期をどこにするのかがポイントです。エレベーターが2基ある建物なら、1基ずつ順番に工事して常に1基は動いている状態を保つなど、段取りは工事会社が組み立ててくれますが、入居者の事情やテナントの繁忙期を把握しているのはオーナー側です。見積の段階で「この時期は避けたい」と伝えておくと、こうした調整部分がスムーズに進みやすくなります。
後付けできない安全装置は、更新と同時に載せる
2009年9月に施行された建築基準法施行令の改正により、新しく設置するエレベーターには戸開走行保護装置(UCMP)と地震時管制運転装置を備えることが義務づけられました。前者はドアが開いたままかごが動き出したときに強制的に停止させる装置、後者は地震の初期微動を感知して最寄り階にかごを停め、ドアを開ける装置です。
この義務は改正前からある既存のエレベーターにさかのぼって適用されるものではなく、付いていなくても違法ではありません。いわゆる「既存不適格」と言われる状態で、国や自治体が設置を呼びかけている段階です。ただし、これらの装置は日常の保守の中で単独に後付けできるものではなく、制御盤の入れ替えを伴う工事のタイミングでなければ載せられません。3方式のいずれを選んでも制御盤は新しくなるため、更新工事はこれらの装置を備える事実上唯一の機会です。ここで見送ると、次に載せられる機会は20年以上先の次回更新までありません。
選べる工事分類は、昇降路の状態と建物の使われ方で決まる
どの工事分類を選べるかは、建物の側の条件でかなり絞られます。既存の昇降路の寸法やガイドレールの傷み具合、機械室の有無、既存機種の部材がまだ流通しているかといった条件を踏まえると、実際の更新の多くは制御リニューアルか準撤去リニューアルに落ち着きます。
全撤去リニューアルが選ばれるのは全体から見ればごくわずかで、特定の条件が重なった場合に限られます。ひとつは、部品供給が途絶えるリスクの高い古い油圧式を省エネのロープ式に切り替えるケースで、駆動の仕組みが根本から変わるため全撤去になります。定員・積載量・昇降速度といった仕様を大きく変える場合や、かごを広げて車椅子で使えるようにする場合も、全撤去と同等の手続きと工事が必要です。もうひとつは、建物全体をスケルトンにして改修するフルリノベーションにあわせるケースで、長期の運休や騒音、建築側の付帯工事の費用を建物全体の計画に組み込めるため、このタイミングであれば採用しやすくなります。
更新の相談は「年数・不具合・基数・止められる時期」の4点から
更新の検討を始めるときは、設置からの年数、起きている不具合や停止の内容、建物にある基数、止められる時期の4点を整理しておくと話が早く進みます。現地で昇降路と機械室を実測すれば、その建物で取り得る方式は絞り込まれていきます。
複数の方式を並べた見積が出てきたら、金額だけでなく、運休日数と工事に含まれる範囲を横並びで比べられる形にしてもらうと、方式ごとの違いが判断しやすくなります。エレベーターの更新は、入居者やテナントの日常の動線に最も直接響く工事のひとつです。その止まる期間まで含めて工事会社と詰めておくことが、工事が始まってからの負担を軽くします。